《初めに》
今回は雑誌編集者兼フリージャーナリストである神代(かみしろ)さんからご依頼があり、テニストップ選手であるカルロス・アルカラス(スペイン)とヤニック・シナー(イタリア)のライバル関係について、インタビュー形式でお答えすることになりました。その模様の一部を皆様にお届けいたします。
神代さん(以下神代と記載)「今回はこのような機会を設けてくださり、ありがとうございます。本日はよろしくお願いします。」
瀬藤「こちらこそお忙しい中ありがとうございます。神代さんは木下グループジャパンオープン(10月13日~19日、大阪で開催)の取材中にわざわざ当店まで来てくださって、本当にお疲れ様です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
神代「当初はZOOMでインタビューの予定でしたが、お互い中々予定が合わず、ジャパンオープン女子の時期までずれ込みました。せっかく関西まで来るなら直接お会いしてお話を伺おうと。私のガットも張り替えてもらいたかったので・・・」
瀬藤「本当にありがたいです。」
神代「それでは早速本題に入りたいのですが、カルロス・アルカラスとヤニック・シナーのライバル関係について、端的に言うとどんな印象をお持ちでしょうか。」
瀬藤「長く続いたBIG3・あるいはBIG4とも言うべき時代が終焉して、テニス界に新しい明確なテーマが必要とされる時に、この2人が抜き出てきたことは本当に幸運だと思っています。」
神代「確かに。”ジョコビッチ対アルカラス”という構図も時代の移行期としてそれなりに意味があったと思いますが、長期的なテーマとはなりえないものでした。」
瀬藤「そうですね。」
神代「今のテニスを深く知り、これからのテニスをより楽しむためには、この二人のライバル関係を紐解いていく必要があると思うのです。今回は様々な視点で彼らのことを深堀していきたいと思います。よろしくお願いします。」
瀬藤「よろしくお願いします。」
《基本データの比較》
神代「まずは、二人の基本的なデータについてお伺いしていきます。カルロス・アルカラスは2003年5月5日生まれの22歳。身長は183㎝で体重は74㎏です。対するヤニック・シナーは2001年8月16日生まれの24歳。191㎝で体重は77㎏です。これらについてはいかがでしょうか。」
瀬藤「まずは、アルカラスってまだ22歳なんだっていつも思いますよね。2021年の5月24日にはTOP100に入っているし、そこから1年半経っていない2022年の9月12日には史上最年少で世界ランク1位になっていますから、ここ最近ずっと彼を見続けているわけですよ。」
神代「18歳0カ月でトップ100入りはもちろん驚愕ですが、そこから1年半経たずに世界ランク1位は本当になんて言っていいかわからないですね。」
瀬藤「文字通り歴史に名を残す選手になっていますよね。ここで注目したいのですが、アルカラスって身長183cmしかないんです。日本人からしたら十分大きいのですが、TOP100の平均身長は僕の調べでは約187㎝なので、4㎝程低いんです。身長が高ければ高いほど筋肉は長くなってスイングスピードが速くなりますので、身長が高いほどパワーの面で有利なのにも関わらず、アルカラスはあの類まれなるハードヒットが武器になっています。神代さんはグランドスラムでアルカラスを生で見ているでしょうから、より違いがはっきりわかるのではないでしょうか。」
神代「はっきり言って他のTOP選手と比べても全然打球音やスピードが違います。それはシナーについても同じことが言えますけれども。」
瀬藤「そうですよね。この二人の打球音やボールスピードが異次元なのは画面越しからも良く伝わってきます。」
《少年時代のアルカラスとシナー》
神代「シナーは、テニス選手としてはややかわった少年時代を過ごして来たんですよね。」
瀬藤「そうなんです。シナーは3歳でスキーを始めて、8歳の時には競技に出始めているんです。12歳まではイタリアのトップジュニアのうちの一人で、11歳の時にはジャイアントスラロームで全国準優勝を飾っています。テニスは7歳から始めています。」
神代「少年時代のシナーにとってテニスはトッププライオリティではなかったということですね。」
瀬藤「トップどころか2番目ですらなかったんです。シナーにとって2番目はサッカーでしたから。」
神代「それを聞くと恐ろしいですね。一方のアルカラスはいかがでしょう。」
瀬藤「アルカラスは4歳の時に、父がコーチ兼クラブの管理者を務めているテニスクラブでテニスを始めています。ジュニア時代からトップを走り続け、11歳の時には現在のコーチであるファン・カルロス・フェレロさん(全仏オープン優勝、元世界ランク1位)へ紹介されています。」
神代「アルカラスは絵にかいたようなエリート街道を走っていますね。シナーがテニスに専念するきっかけとなったのはなんなのでしょうか。」
瀬藤「シナーは身長が高くてとても細く、13歳の時に35kgしかなかったそうです。この体格はスキーやサッカーをプレーする上ではやや不利だったのと、1対1の戦いや、結果をより自分でコントロールすることが好きでテニスを選んだと本人は語っています。そして、イタリアの名門”ピアッティ・テニスセンター”で練習するため、単身でボルディゲーラへと移住し、コーチの家に住まわせてもらうことになりました。」
神代「それはそれですごいですよね。よく決断しましたね。」
瀬藤「元々シナーの家族はテニス好きで、家族のサポートが手厚かったようです。おじいちゃんは幼いシナーをよくプライベートレッスンに連れて行っていたようですし。」
神代「それにもかかわらず13歳までは3番目だったと。」
瀬藤「そうですね。ピアッティ・テニスセンターへ行くまでは週2回ほどしかテニスをやっていなかったそうです。」
神代「・・・それも驚愕の事実です。では13歳以降のジュニア時代の比較はいかがでしょうか。」
《ジュニア時代の比較》
瀬藤「アルカラスは2019年のウィンブルドンジュニア(その時の優勝者は日本の望月慎太郎)でシングルスベスト8の成績を収めています。ただ、14歳頃からプロの試合に出始めていて、そもそもジュニアの試合にあまり出ていません。2019年のウィンブルドンジュニア以降は本格的にプロの試合一本に絞っています。」
神代「早くからジュニアのトーナメントをスキップしてプロの試合に出ていくのは同郷の先輩であるラファエル・ナダルと同様ですね。」
瀬藤「ジュニアグランドスラムでいくら良い成績を上げていても、プロ入り後にITFやフューチャーズですら苦戦する元トップジュニアがわんさかいますので、才能が全く違うということでしょう。」
神代「シナーのジュニア時代はいかがでしょうか。」
瀬藤「シナーはアルカラスよりもジュニアの試合に出ていません。唯一の目立った成績は、2018年5月にワイルドカード(主催者推薦)で出場したイタリアのグレードA(グランドスラムジュニアも同じグレードAに属します。)のトーナメントでシングルスベスト8に入った(準々決勝で日本の田島尚輝に敗北)ぐらいでしょうか。もちろんグランドスラムジュニアには一度も出場していません。シナーはアルカラスとは事情が違っていて、ジュニアランキングが低すぎるがあまり、グレードの高いジュニアトーナメントに出場することができなかったんです。」
神代「13歳で本格的にテニスを始めていますから、ジュニア時代に頭角を現してこないのは当然といえば当然ですね。それでもグレードAでベスト8はすごいですよね。」
この話、続きます。次回をお楽しみに!!