テニスの時にすぐ息があがる、すぐ疲れてしまう、どうしたらいい?その1~エネルギー供給機構から考える~

スクールでテニスを習ったり、友達と一緒にテニスをしたり、試合に出たり・・・
皆さんがテニスをプレイする場面は様々だと思います。
僕は今までの指導経験上、「すぐ息があがってしまう」「心臓がバクバクする」「すぐ疲れてしまう」「体力が切れて負けてしまった」などのお悩みを生徒さんからよくお聞きします。こういったことは老若男女・プレーのレベルを問わず、誰もが抱える課題なのだと思います。
今回はこれらの『心肺的な疲労』や『全身の倦怠感』にどう対処していくかを考えていきたいと思います。
まず、私達の息が切れたり、心臓がバクバクしたりするのは、私達がテニスをするときに『エネルギー』を使っているからです。エネルギーがたくさん必要だからこそ、呼吸の回数を多くしたり、心臓の鼓動のペースを速めたりするわけです。そして、この『エネルギーの供給』を考える際に大事なことがあって、それは、そのスポーツがどれぐらいの時間継続するかということです。
極端な例で言うと、100m走ではトップレベルになると10秒以内で勝負がつきます。一方でマラソンだと2時間ちょっとです。
サッカーだと45分×2ですが、途中に15分のハーフタイムがあります。また全選手がいつも全力疾走しているわけではなく、ある選手はダッシュしていたり、ある選手はジョグしていたりします。まとめると5~10秒程度のダッシュとジョグを繰り返すスポーツだと言えます。このようにプレー中に高強度な運動と休憩をはさむスポーツを『間欠的運動』といいます。ラグビーやバスケットボールなども同様です。
それでは、テニスはどうなのでしょうか?
テニスの1ポイントにかかる時間は、サービスエースやリターンエース、リターンミスなら5秒もかからないです。ダブルスかシングルスかによりますが、多くのラリーは30秒以内に決着がつくでしょう。相当長いラリーだとしても1分以上かかることはまれです。そして1ポイントが終わると20秒の間が与えられることになります。これはルール上休憩時間という位置づけではないですが、プレーしているわけではないので、身体としては休憩していると言って差し支えないでしょう。また、エンドチェンジの時は90秒の休憩が与えられ、セット間には120秒の休憩が与えられます。
以上のようにテニスも、サッカー・ラグビー・バスケットボールなどのスポーツと同じように『間欠的運動』だと言えます。
ここで、私達が運動する時、どのような形でエネルギーを供給しているのかに触れたいと思います。次の表をご覧ください。
運動の継続時間
主なエネルギー機構
0~6秒間
ホスファゲン機構(ATP Pcr系)
6~30秒間
ホスファゲン機構と速い解糖
30秒~2分間
速い解糖
2~3分間
速い解糖と酸化機構
3分以上
酸化機構
上の表は競技選手が最大のパフォーマンスに達するべく最大努力をした際の運動の継続時間と主なエネルギー機構の関係を表したものです。では、それぞれのエネルギー機構を簡単に説明したいと思います。
まず、『ホスファゲン機構』とは、体内にある『ATPの加水分解』と『クレアチンリン酸の分解』によってエネルギーを得るしくみです。細かい説明は省きますが、非常に高速度でエネルギーを供給できるけど、持続しないと考えて頂ければ結構です。
次に、『速い解糖』ですが、これは筋に貯蔵されている『グリコーゲン』や、血中に運搬されてきた『グルコース』を分解して、『ATP』を再合成することです。ATP合成速度はホスファゲン機構ほど速くはないものの、『グリコーゲン』及び『グルコース』の供給が『クレアチンリン酸』と比べて多いので、持続能力は高いです。また、この過程は酸素の消費を伴わないことから、『無酸素的解糖』とも呼ばれています。
最後に『酸化機構』ですが、これは体内に貯蔵されている炭水化物や、脂質、たんぱく質を酸化してエネルギーを得る仕組みです。安静時にはATPの約70%が脂質から、約30%が炭水化物から得られています。運動強度が上がると、その比率は炭水化物へと移り、高強度の有酸素運動ではエネルギーのほぼ100%を炭水化物から得ることになり、脂質およびたんぱく質の寄与は最低限となります。この過程は炭水化物の供給が続く限り、ずっと継続できます。
以上のようにエネルギー供給機構を簡単に説明していきましたが、先程申しあげたとおり、テニスのラリー時間は5秒~30秒以内に収まることがほとんどです。ということは、テニスをする時におけるエネルギー供給機構は主に、『ホスファゲン』と『速い解糖』ということになります。ここを改善するのが大事ということです。
よって、テニスをする時の『心肺的な疲労』を改善させようとして、長距離ランニングを行ったとしても、効果はかなり薄い、それどころかデメリットの方がはるかに大きいと思っておいた方が良いです。
なぜなら3分以上続けられるランニングを実施しても、『酸化機構』のエネルギー供給能力を主に鍛えることになり、テニスをする時に肝心な『ホスファゲン機構』や『速い解糖』にあまり刺激を与えられないからです。
よく部活やスクールで『長距離ランニング』を推奨する、メニューに組み込まれている例が見られますが、長距離ランニングによってテニスにおいてとても大事な『スピード』を失わせる原因となりますし、繰り返す着地により膝への負担も増大します。もしテニスの練習前にそれを行ったならパフォーマンスの低下は顕著です。
部活やスクールの方針でどうしようもない場合もありますが、できることなら止めた方がいいです。
それでは、いったいどうすればよいのかを『その2』で説明していきたいと思います。
続く
【参考・引用文献】
『NSCA決定版 ストレングストレーニング&コンディショニング 第4版』G.Gregory Haff N.Travis Triplett 編,ブックハウスHD
                        
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